医療コラム/塩谷郡市医師会

塩谷郡市医師会のリレーコラム。毎回テーマを変えて各分野の話題をご提供

医学の進歩

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    岡医院院長 岡 一雄

     私が小学校三年生のころの話なので、もう四十年近く前のことです。写生大会でいつも金賞をもらう同級生の男の子がいました。当時、ほとんどの生徒がクレヨンで絵を描いていたのに、彼だけが絵の具を使って水彩画を描いていました。彼の描く風景画は小学生が描いたとは思えないくらいデッサンが確かで、水彩画の持つ透明感が際立っていました。そんな彼の絵は、クレヨン画しか描けない私たちにはひそかなあこがれでした。
     その彼が突然、病気で学校を休むようになりました。ほどなく、担任の先生から、彼の病気について話があり、その時私は初めて「白血病」という病気のことを知りました。
     クラスのみんなで千羽鶴を折り、水彩の絵の具も一緒に持ってお見舞いに行った覚えがあります。彼に会ったのはその時が最後で、その後は彼のお葬式に参列した記憶しか残っていません。
     医科大学を卒業して私が入局した小児科は、白血病の治療を専門としていました。病棟では、小さな子供たちがつらい治療に耐えながら必死にこの病気と闘っていました。そして多くの子供たちは「寛解」という状態になって元気に退院していきました。
     「寛解」とは完全に治ったわけではありませんが病気の勢いを抑えることが出来た状態のこと。長い経過の病気では「治癒」ではなくて「寛解」という言葉を使うことがあります。
    そのころ、すでに小児の白血病は必ずしも不治の病ではなくなっていたのです。もう少し遅く彼が生まれていたら、あるいは医学の進歩がもっと速かったら、彼は今でも元気で風景画を描き続けていたかもしれません。
     かつて吉永小百合さんが主演した「愛と死を見つめて」という映画が、あるいは夏目雅子さんが若くして亡くなったことが「白血病は不治の病である」と一般に定着させてしまいました。しかし、最近では、化学療法や骨髄移植などの治療法が進歩したおかげもあり、白血病は高い割合で治る病気となっています。
     医学は確実に進歩しています。例えば二十年前は磁気共鳴画像装置(MRI)という検査はまだ試作段階でしたが、今では気軽に受けられる検査となりました。胃かいようがピロリ菌という細菌で起きることがわかり、その治療が行われ始めたのはつい最近のことです。
     近い将来には遺伝子治療などもいろいろな治療の困難な病気に応用されるでしょう。昨日までは治らなかった病気が今日は治る可能性が出てきています。
     ですから、今どんな難病で苦しんでいたとしても、将来必ず治療法が発見される日が来ることを信じ、決して希望だけは捨てないでください。


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